未曽有の大震災から1カ月、列島のあちこちで、立ち直りを誓う力強い取り組みが本格化しています。

最大震度6強の揺れで大きな被害を受けた、宮城・大崎市の老舗酒蔵の「きらめき」の新酒造りに密着しました。

割れた瓶を黙々と片づける、宮城・大崎市で酒造りを行う「新澤醸造店」の新澤巌夫さん(35)。

新澤さんは「つらいですけども、とにかく前に進むために、この瓶を片づけていかなければいけないということです」と話した。

3月11日も、新澤さんは、搾りたての新酒が積み上げられた酒蔵にいた。新澤さんは「あんまり覚えてなくて。すごく長かったような。でも、記憶にあんまりなかったりとか...。あまりよく理解できなかったです」と話した。

140年の歴史を持つ老舗酒蔵の蔵は、激しく損傷した。いつ倒壊してもおかしくない状態で、従業員は、危険を承知でヘルメットをかぶって働く。さらに、7割近い酒が割れ、出荷できなくなった。しかし震災前は、この蔵から「きらめき」が生まれていた。

純米大吟醸「伯楽星(はくらくせい)」は、日本航空の国際線ファーストクラスの機内で提供されていた日本酒。新澤さんは、タンクをのぞきながら、「これは開いていたので、土とか入ってしまったりとか、駄目なもろみなんですけど」と話した。新澤さんが見ていたものは、「もろみ」と呼ばれる酵母とこうじ、水、蒸したコメをタンクで発酵させたもの。

「伯楽星」を造るには、フレッシュな若いバナナのにおいがする、もろみが必要となるが、震災後に新澤さんが見たもろみは、無残なものだった。新澤さんは「心が痛みましたし。あふれ返って、海のような状態になっていた。その海のような状態のもろみが、すべて発酵している音が、蔵中に響き渡っていたもんですから」­と話した。

しかし、タンクの中には、わずかに生き残ったもろみがあった。

新澤さんは、残ったもろみを搾り、日本酒を造った。新澤さんは「震災後に搾ることができまして、すごく感慨深いものというか...。ただあとは、これがきちんと蔵の味として出せるのかというのは、やはり甘えになってしまう­ので、いつもより厳しく、また選別していきたいなと思っています」と話した。

震災後にできた酒は、「伯楽星」として認められるのか。

厳しい選別を行う、「利き酒」が始まった。新澤さんは「今、12本ある利き酒のうち、出せるのは5本。なんとか出せるかなと」と話した。地震を生き抜いたもろみで、震災後初めての「伯楽星」ができ上がった。

この日、再開した配達のため、街に出た新澤さん。

宮城を代表するブランドである「伯楽星」は、今、復興の明かりとなっている。

酒店の店主は「新澤さんのお酒を、とにかくこれからも頑張って、一緒に伝えていきたいと思っていますし」と話した。

「伯楽星」が、東北の街を再び輝かす。地震後にできた「伯楽星」は、ラベルが張られ、出荷を待つだけとなった。

しかし、この蔵での酒造りの終わりも近づいていた。酒蔵の土台は、ひときわ損傷が激しい。

新澤さんは「この蔵自体も、ずっと140年続いてますので、ここでやりたい気持ちは一番なんですが、もう限界はとっくに超えてきたかなという」と話した。

140年続く酒蔵を維持させることは絶望的で、数億円規模に及ぶ建て替えなど、厳しい現実と向き合っている。しかし、どんなにがけっぷちに追い込まれても、新澤さんは前だけを向く。新澤さんは「今回の地震で、確かに損害は大きくあったんですけども、僕らのこの心が折れているわけでもまったくないですし、よりいっそう強い気持ちというのは、蔵人全員一­致して持っていることなので。さらに飛躍させて、飲んでいただく方への満足感へと、きちんとつなげていけるように頑張っていきたいなと思っています」と話した。